平成十八年（2007年）、元日の放送で
「2006あなたの選ぶ深夜のバカ力瞬間最高面白・略してフリートーク拾い食い王選手権」
という特別コーナーをやっていました。
要するに2006年中の面白トークをリクエストに答えて紹介するという内容でした。
その中で「濯本さん」の話があり、大笑いしたのですが私はこの話、記憶にありませんでした。
過去のMDを引っ張り出してみると確かにこのトークありました。
おそらく聞き逃していたのでしょう。
元日の放送では一部しか紹介されていなかったので、
ここに濯本さんについてのトークを全文書き起こしておきます。
（オープニングテーマ）
えー、洗濯機は意外に安いんですよ。
びっくりすることに。
あのねぇ、あのー・・・洗濯機が遂に壊れたんですよ。
俺、初めて独り暮らしした時だから、二十五、六ぐらいの時に洗濯機買って・・
四万か五万くらいしたと思うんだよ。なんでもない一層の洗濯機で。
・・・それ、ニューロファジー。
「ファジー」とか、ちょっともう、面白いね。
（渡辺くん笑い）
もの凄い、あの時考えたらさぁ、二十五ってことは、
二十年までいかないけど、十三、四年前じゃないすか。
十三年ぐらい前に買ったときに、もう、この先どんだけニューロファジーになってくんだ。
ニューロファジーになってくんだ。みてーな？
で、その段階では洗いたい物に合わせてちょっと水流を変たりするくらいがニューロファジーだけど、
いづれ、ウンコついたパンツには愚痴を言うくらいの事はすると思ったわけですよ(笑)
「てめぇ！またウンコついてんじゃん！いくつだよ！？」みたいな。
（略）
俺の思い出のね、思い出の洗濯機なわけですよ。
今思えば、独り暮らし始めた頃なんて、
ラジオやるたびにニッポン放送のデレクターさんとかに怒られて・・・。
でいて、で、しかも、まぁデレクターさんだけならまだしも上層部にも怒られて・・・
で、上層部の人と口論になった時に・・なんか、あんま飲み慣れない・・
飲み慣れないていうか、そういう偉い人とお酒飲むのあんま慣れてなかったりするから
すごいお酒飲んで泥酔した上に、ちょっと腹立つこと云われて、
「そんな言い方ねぇじゃねぇかよ！！」って云った途端にちょっとウンコでちゃってたり(笑)
それでその後「そんな態度だと、二度とこの局には出入り禁止になるからな！」みたいな話して、
俺、もう、ウンコもでちゃってるし、お酒も飲んじゃってるしさぁ、
取り返しのつかない一言云っちゃってるから、
もう、しょうがねえから「わかったよ！もう絶対やめるよ！」とか云いながら、帰ってきてから
そのちょっとウンコの出た・・附いたじゃなく、パンツを洗ったりした洗濯機ですよ。
僕から云わせれば。
だから、いつまでも長生きして欲しいんで、あの、ネットで調べてさ。
ＮＥＣかなんかの洗濯機ね。
昔買ったね、ＮＥＣの洗濯機で、ほいで、ＮＥＣのお客様サービスセンターに電話掛けたらさぁ、
あの「商品はなにを？」みたいな。
「この商品についてのお問い合わせはなにを？」みたいな。
あの、受付の女の人が変な声で喋るヤツあんじゃん？(笑)
（渡辺くん笑い）
多分、俺を馬鹿にしてるんだと思うんだけど(笑)
「何々の人は１を・・・」みたいなやつあるじゃんか。
ずーっと聞いても洗濯機の人が出てこねえんだよ。
ほいで、その他の人みたいなのに電話掛けたら
「十年前に洗濯機からは撤退しております」って云うんだよ。
（渡辺くん笑い）
NECはもう十年も前に洗濯機に関しては愛想尽かしてますんでっていうことで。
あのー・・担当の者が居ねぇみたいなこと云われるんですよ。
そんで、そのー・・ただ、やっぱりその辺はちゃんとした家電メーカー、偉いもので、
「担当のわかるものを探して折り返し電話をさせますんで、ちょっと時間が掛かります」
っていうことは（きちんと云われた）。
おそらく、洗濯機を担当していた人は今、相当閑職にまわされてるんだと思うんだよ。
あの・・・プラズマ管かなんかやってる人からさぁ
「あはは・・・確か洗濯機お得意で。僕があなたの下で洗濯機を直してる頃に随分嫌味を云われましたねぇ？」
みたいなことを、こう、云われながら。
「あ、あぁ・・まぁ・・・ね。ま、時代は変わったねって思うんだよ、僕も・・・。」
なんて言いながら、（今は）資料の編纂とかをしてるんじゃないのかな？
ねぇ、それでいて、その、えーと・・・あのー・・・
「ホラ、洗濯機担当してたあの人なんていったっけ？」
「・・・あ！濯本（すすぎもと）さん濯本さん！」
みたいな(笑)
「濯本さんって今どこにいたっけ？」
「あれ、資料編纂じゃなかったの？」なんつって(笑)
で、資料編纂室に行って、（ドアを）コンコンってやると、
濯本さんが資料を編纂してるわけですよ。
すると、「濯本さん、久し振りに洗濯機に関する問い合わせだよ」みたいなのがあって(笑)
で、濯本さんもダッシュでですよ。
ダッシュでビルの地下六階にある資料編纂室から、
NEC・・・いまや、いまやですよ。
世界のスーパーコンピューターを牛耳るＮＥＣタワーの百八十階までダッシュですよ。ね(笑)
「エレベーター使えよ！」なんて言われてももう必死だから(笑)
「俺の！俺の洗濯機が！！」みたいなやつになって。
時間が掛かるんだろうね。
二時間くらいあると思うな。バックコールがして、でー、
「・・・あ、あのー、私、ＮＥＣの濯本と申しますけども・・・
思えば！！日本の家庭に洗濯機が入ってきたのは！！」
みたいな(笑)
それは押し殺して言ってないよ？(笑) 云ってないよ。
「昔は三種の神器と申しまして」みたいな(笑)
「三丁目の夕日でも御覧になった通り、二層式の洗濯機が・・・」
みたいなのを全部押し殺して(笑)
「どういった御用件ですか？」って濯本さんカッコ仮名が云うわけだよ。
それでーあのー・・
「実は洗濯機を・・」
「これこれという型番のを使ってたんで、随分前のやつですね」
なんて型番のを使ってたんだけど、
洗い、注水、洗い、濯ぎ、脱水の「洗い」のとこに「注水」は点くんだが、
「洗い」ってとこにくると止まるんだ、って云うと、
（濯本さんが）「あ、「洗い」ですか！？じゃあ、洗井の方に代わります」みたいな(笑)
「私、濯本と言いまして濯ぎの方なんで」みたいなのも全部押し殺して。
言ってねえよ？(笑) 言ってねぇ、基本は。
ほいで、俺が、
「なんか洗いのところにきたらもう止まっちゃった上に、ウ〜・・・って言って、
で、その後、モーターが焼けるみたいな匂いがするんですけど」
みたいなこと言って。
当然、その二時間の間にさぁ・・・
まぁ忘れようと思った頃もあるよ？濯本さんは。洗濯機に関しては。
自分の青春は何だった？って訊かれりゃそりゃ洗濯機だけども、
もう、時代が違うんだ。洗濯機の事は忘れよう。
と思って、ずーっと生きてきたと思うんですよ。他のことをしながら。
たまにね、天気のいい日に、天気予報を見てると、
洗濯指数なんか出てきてもチャンネル変えたりとか。
もう、俺、洗濯するとかいいから・・・。みたいな。
そういやぁ、あん時に一回、洗濯機関係でヘッドハンティングの話もあったんだけど
なんで勇気が出なかったんだろう？
みたいな日々をくらしてたわけだから、その時の知識をすべて呼び起こして、
「俺は洗濯機のトラブルに関しては全部！」
みたいなこと言ったら、俺の言った症状に対するピーン！と出た濯本さんの答えが・・・
「寿命です」と。
（渡辺くん笑い）
「対策はノー」だと(笑)
で、基本的によくよく考えたら凄いことなんだ・・
そんな単純でさぁ、
その時フロアにあった一番安いような単純な洗濯機を買ってるのに、
電化製品、十五年もつの凄くねぇ？
しかも、俺はベランダにしか洗濯機置き場が無いから、
そういう所で雨風にも耐えさせですよ。
酷い量を洗わせしてきて、
ちゃんと最初の時に、
最初の説明書には「ウンコをつけないでください」って書いてあるし、
あと、お袋からも散々云われてるのにつけてきたわけじゃないですか(笑)
・・・洗濯機の寿命なんか大きく超えてるんだから、
その答えでオッケーなんだけど、
心なしか、「寿命です」の声が震えていたよ。
そりゃ、完全に震えていた。
で、（俺は）「あっそう」って言って切っておいた(笑)
「あっそう」っつって(笑)
しょうがねぇもん。寿命だから。
（曲）
いや、考えてみればねぇ、
濯本さんの人生っていうのもねぇ、大変な人生ですよ。
まぁ、子供の頃はねぇ・・・
あ、お父さんはねぇ、盥（たらい）を作っている職人さんだったんですよ。
お父さんの・・先代の濯本さんはね。
で、お父さんは盥職人を継いで欲しかったんだけど、
「プロ野球選手になりたい」と(笑)
それでいて、かなり野球には打ち込んだんだけども、野球でレギュラーになれなくて
でいて、肩壊しちゃんだね。
それでいて、
「お前、どうする？野球部残るか？」って言われて、
「僕、残ります」
「残るっつったってマネージャーくらいしか仕事ないぞ」つって。
部員もさ・・・。
汚れたユニフォームを濯いで濯いで、ですよ。
で、ハタと気づくんだよね。
「俺、濯ぐ！」って(笑)
（渡辺くん笑い）
気づくわけ。
で、「濯ぎ関係の会社でコネクションあるところありませんか？」って。
大学のその、あの・・・就・・・何部っつーの？
あのー・・・求人が来るところ。
あそこ行ったら、ピカーッ！「ＮＥＣ」ね。
あの、そのころは洗濯機全盛の時代ですから。
洗濯機部の中の「濯ぎ部」までありますからね(笑)
で、「濯ぎ部」あるっつって面接でね、
で、言うんだけど、
「君は今まであれかなぁ？電気の事はやったことあるのかなぁ？」
「いや、僕は野球一筋だったもので、・・・でも！この濯本という名前が！」
みたいなこと云って(笑)
「面白い人材だねぇ、一人ぐらい採ってみようか」なんつってね(笑)
で、同期の脱水川くんと洗井さん。
（渡辺くん笑い）
この三人と
「すっげー、いつか、スッゲー洗濯機作ってさぁ、日本を洗濯しようぜ！」
みたいな話をしてるわけ(笑)
で、そうすると、バブルの頃かなぁ？
脱水川さんのところにさぁ、イギリスのメーカーからヘッドハンティングの話が来るわけ。
「ペアで来ねぇか？」みたいな話。
で、二兆ドルですよ(笑)
二兆・・・日本円に直して二兆円の申し出があるんだけども、
「いや、俺はここで濯ぎてぇ」っていう。
「今、開発している注水二回濯ぎに関して極めてからじゃねーと出来ねぇ」
みたいな話をするわけですよ。
ほいで、「じゃあ」って云って脱水川さんはイギリスの方に行く途中に遭難しちゃって死んじゃったっていう(笑)
あのー、それで脱水川さんの若い未亡人の人が・・・
（未亡人）からさぁ、「濯本くんへ」っていう生前したためた手紙を貰うわけ。
で、したらさぁ、一回洗濯機に落ちちゃったから読めねぇんだよ。
滲んじゃってて。
「でも、多分あんなだな」って、心に誓うわけですよ。
じわじわになっちゃってるけど(笑)
「あんなはずだ！」って(笑) あいつは。
「脱水川の本心はあれかな？」っつって(笑)
で、それを救うわけですよ。
で、まぁ、あのー、洗井くんはさぁ、
あのー・・今度、洗濯機に関しては完成されてくんだけど、
食器洗い機とか出来てくるからさ、
洗井くんは出世コースにどんどん入ってくるわけ。
どんどん入っていって。
で、最終的にはパソコン洗ったりする部門とか(笑)
NECのメインの部門に入ってくから、結構いい感じになってきたりとかするんだけど。
濯本くんだけはさぁ、最後の一期の・・・
あのー・・・最後の一番最後のウチは撤退するよっていう、
最後のマシーンにもの凄い設計図を持っていくわけですよ。
これは凄いんですよっていう。
「ありとあらゆるものを濯げるんです。
・・・ただ、水が黒部川ダム一個分くらい使うんですけど。」
みたいな話をして(笑)
「ばっかじゃねーの？」って云われて(笑)
「無理だよバッカ！」って云われて(笑)
シュンてしてですよ。
それできて、何年ぶりかのお客様相談センター・・・
しかも、洗濯機部門へのお電話がクソデブから掛かってきて。
で、云った言葉が「寿命です」しかないわけですよ。
で、向こうからしてみたら、
このお客さん食い下がって来ると。
こんだけ大事にしてるんだから。
（でも伊集院光からの返事は）「あっそう」と(笑)
「寿命ならしょうがねぇ」という諦めで電話を切って。
また、あれですよ、そのNECタワーの百八十階からトボトボトボトボトボ・・・・
階段をね、降りてゆくわけですよ。
折りしも外は豪雨ですよ。
「あぁ、今、地球が濯がれてるかのような。」
・・・別にいい話じゃないです、これは(笑)
（渡辺くん笑い）
（CM）
それでも濯本さん頑張ったと思うけどね。
実際は(笑)
一回、営業とかまわされていると思う・・・慣れない営業ですよ。
元々、開発畑の人間ですから。
慣れない営業で、得意先の接待とかしてさ、みんなでクラブとか行くじゃないですか。
そうすると、相手が全然名前覚えてくれなくて、
「おぅ、杉本くんさぁ」
「あ、濯本です」
なんていうのずーっとやってって(笑)
また、酔っぱらってくると、
「おぅ、杉本くんは・・・」
「あ、いや、濯本です」
みたなの云っているうちに、横に居たクラブのさぁ、馬鹿！
・・・馬鹿ねーちゃんがさぁ、
（クラブのおねーさん口調で）「杉本の方が言いやすい！」
なんとか、言いやがっ・・・言い出して。
で、得意先の接待している相手の社長がさぁ、
「じゃあ、お前、今日から杉本って言え」
みたいなことで(笑)
で、もう、それから先は杉本杉本って言われるんだけど、
（濯本さんは）ちっちゃく「すすぎもと・・・すすぎもと・・・」
（社長からは）「すーすー言ってるんじゃない！」なんて言われて(笑)
なんだよ(笑)
二十二分間妄言だよ(笑) 完全な。
だって、事実のところは洗濯機が壊れちゃったというところだけだもの。
まぁ、お客様相談センターに電話をしたらNECは洗濯機事業からは撤退してましたっていう。
･･･お、六秒で言えたぞ、今(笑)
それの話だけど(笑)
まぁ、いいんだよ、俺がこの何年間で身に附けたスキルだから(笑)
以上です。
伊集院さんはなんでもないところから壮大な物語を作る天才ですね。
本当に感心させられます。
私、濯本さんについての短篇小説を書きたくなりました(笑)
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